氷雪王の求婚

氷雪王の求婚 〜春にとけゆくものの名は〜 (コバルト文庫)

氷雪王の求婚 〜春にとけゆくものの名は〜 (コバルト文庫)


ちょっと前のエロゲー永遠のアセリアというものがありましたね。いや好きなんですよ、エロゲー。で、この永遠のアセリアつーのは異世界に放り込まれた主人公が妹とか人質に取られつつ戦場に赴くという異世界ファンタジーなんですが、ひとつ印象深い演出があります。エンディングで異世界ファンタズマゴリアの歴史が表示されるのです。そして歴史の最後に主人公とアセリアの名前が刻まれる。これは中々に痺れる演出でした。


氷雪王と求婚は少年もの、少女ものを含めライトノベルには珍しい歴史チックな小説です。歴史チックといっても安部清明とか織田信奈とかのような歴史上の人物が登場するファンタジーとは違うわけでして。歴史の重さを表現しようとした作品、といったほうが良いかもしれません。
物語は考古学として歴史を振り返るという視点から始まります……死したヒロインの墓所を発掘して評価するという視点です。


正直、キャラクターはありきたりです。冷酷な美青年である氷雪王、その心を溶かす明るいヒロイン、優しく聡明だが腹に一物ある王弟、実にオーソドックスでまさにコバルトとといった配置で、少女系ライトノベルを読む男からすると飽食気味で正直止めて欲しいレベルですらあります。ストーリーも田舎娘が美青年と無理やり政略結婚→紆余曲折あり心通じ合う、という身も蓋もない内容なので「妄想はエロゲーだけにしてくれないか」と言いたくなります。しかも展開の合理性も甘く荒い。


しかしながら次の2点でこの作品は非凡なのであります。
ひとつは上記の歴史的視点が飛びぬけてよいスパイスとなっていること。ところどころに挿入されている後世の評価や、歴史上人物(=主人公たち)の日記の抜粋がボディーブローのように利いてくるのです。クソッ、イケメンだらけの物語なのに俺の肝臓にいい拳が入るッ!

もうひとつは、結末が予告された物語であることです。開始早々にヒロインと氷雪王の結婚がどういう結末を迎えるかが明示されます。そしてその結末へ向けて物事が進み、歯車が回るのであります。こういった構成をとるライトノベルというのは非常に珍しいのです。ミステリーだと私が大好きな西澤保彦の神麻嗣子の超能力事件簿シリーズ(チョーモンイン!)*1が即座に思い浮びますが、ライトノベルでは漫画と同じく人気が出るとあらばシリーズ化と後付け長大化、または打ち切りが日常茶飯事なのでこういう構成はほとんど見られません。強いて名前を挙げるならば「終わりのクロニクル」、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」とか。厳密に言うと終わクロはクライマックスシーンが1巻の冒頭にオーバーラップしているつーだけで、結末を予告しているわけではありませんが。


そんなわけで氷雪王の求婚は粗削りながら面白いので大好きだ!
この作者の作品は次も間違いなく買う。

*1:探偵役の主人公とその恋人が殺され、生まれくる娘は主人公の前妻に養育されること、そしてその殺人犯が誰であるかが提示済み。いつになったら予定された結末の最終長編が出るのだらう。チョーモンイン!